タンパク質品質管理に適した環境とは

 小胞体は分泌タンパク質や膜タンパク質の成熟の場である。そのため、多くのタンパク質が小胞体に挿入され、そこでは高度なタンパク質品質管理がなされている。タンパク質品質管理を維持する環境基盤はどのように構築されるのだろうか?

 小胞体環境に特徴的なタンパク質、レドックス、カルシウムという3つの環境要因に着目し、それぞれのクロストークが小胞体内腔の恒常性維持に重要な役割を果たしていると考える。

レドックスによるタンパク質品質管理

 多くのタンパク質は、その立体構造形成に正しいジスルフィド結合形成を必要とする。小胞体はサイトゾルと比較して酸化的な環境とされ、この酸化的環境はジスルフィド結合形成(酸化反応)に有利な環境とされる。また、小胞体にはPDIファミリーと呼ばれる酸化還元酵素群がネットワークを形成し、タンパク質のジスルフィド結合形成を触媒する。


 一方、我々は酸化的な小胞体内腔で、ジスルフィド還元酵素として働くERdj5を同定した。酸化的環境で働く還元酵素ERdj5は、小胞体内腔の恒常性維持にどのように関わるのだろうか?

レドックスによるカルシウム制御

 細胞における小胞体の重要な役割の一つとして、カルシウムイオンの貯蔵庫としての役割がある。サイトゾルと比較して小胞体には、約一万倍のカルシウムイオンが貯蔵されている。小胞体から放出されたカルシウムイオンは様々な生命現象のセカンドメッセンジャーとして働く。

 小胞体内腔のカルシウム恒常性は、安定的なカルシウムイオンの放出に影響を与えるだけでない。小胞体で働く分子シャペロンには、カルシウムイオンと結合することにより活性を獲得するものが多く、カルシウム恒常性の破綻はタンパク質品質管理の破綻につながる。

レドックス環境の構築

 小胞体内腔のレドックス環境が、どのように酸化的に維持されるメカニズムは未だわかっていない。タンパク質品質管理、カルシウム恒常性に関わるレドックス環境の構築機構の解明を目指す。

 また、酸化的な小胞体内腔で還元酵素を同定している。このような酵素が酸化的環境で働けるメカニズムは全く分かっていない。酸化反応と還元反応を併せた小胞体における電子ダイナミクスの全容解明を目指している。